平成6年度研究成果

1.研究目的

 地域保健法の成立を受けて、今後、地方衛生研究所、保健所、市町村がどの様な機能分担をし、地域保健をいかに推進すべきかが課題となっている。また、これを受けて地研の将来のあり方を検討する必要が生じている。しかしながら、地域保健の現状は、都道府県や政令市の持つ地域特性または施策の差によって異なっており、三者の機能分担を全国一律にきめるには困難な面もある。

 本研究は、各都道府県・政令市の地研と保健所の機能分担と連携について、その現状と今後を分析すると共に、都市を中心とした地研の地域保健における機能のあり方を探る。

 

2.研究結果

1)全国調査

 全国の73地研に対し、Z章の様式のアンケートを平成6年12月に実施し、100%の回答率を得た。その結果の概要は以下のとおりである。

(1)地研の規模について

47の県衛研のうち保健部門と公害(環境)部門が同一組織のものは25、市では26地研のうち7ヶ所が同一となっている。全国73地研の総職員数は、3,477名(平成6年12月)であり、このうち保健衛生分野の研究員は県が1,474名、市が590名、合計2,064名である。

(2)地研の組織について

企画調整部門を設置している地研は県で17/47(36%)、市で1/26(4%)である。配置人員は平均3.2名、公害研と同一組織の場合平均4.9名である。本部門を設置していない地研では、委員会、事務職、管理部門でこの業務に対応している。

 疫学・情報部門を設置している地研は、県で25/47(53%)、市で5/26(19%)である。配置人員は平均で2.7名、公害研と同一組織の場合は5.6名である。なお、両部門の設置、未設置にかかわらず、同一課(室)でこれらの業務を担当している地研が多数ある。

(3)将来計画について

検討した地研は県で18/47(28%)、市で6/26(23%)、検討中が14/47(30%)、市で8/26(31%)、検討予定は県で9/47(19%)、市で5/26(19%)であり、将来構想については県の8割、市の7割がけんとうあるいは検討を予定している。

 検討内容としては、地研と公害研の統合、改築移転、衛研の位置づけ、調査研究の強化、情報の収集解析、研修指導、教育機能の強化などである。

(4)人事交流の状況

 平成元年から6年までに異動した職員は研で808名であり、研究者数1,474名に比して大きな割合となる。市でも239名(研究者数590名)と同様である。しかし、これは衛研によって大きな差があり、人事交流の全くなかった県、市もある。

 交流先は、保健所、本庁、病院、食肉衛生検査所、公害(環境)研究所、健康増進施設などである。

(5)保健所との共同研究について

 保健所との共同研究は、県では47地研のうち25ヶ所(53%)が実施しており、年平均は0.5件であるが、多い所は12件も実施している。研究分野は、感染症、食品衛生、健康事象に関する疫学的調査研究、疾病予防(成人病、アレルギー等)、情報に関する研究、検査と精度管理に関する調査研究などの順になっている。

 市では26地研のうち20ヶ所と実施率が高い。分野は県とはやや異なり、食品衛生、環境衛生、疾病予防(成人病、アレルギー等)、家庭用品、感染症となっている。

(6)研究の評価について

 評価組織があると答えたのは、県で16ヶ所(34%)、市で4ヶ所(15%)である。ほとんどの地研では、当該管理職がその任にあたっている。しかし、本組織をもたない地研の全てで今後その設置が必要としている。また、外部委員を含めた評価組織を数ヶ所の地研が設置している。

2)班員間調査

 班員および研究協力者9地研についてZ章にある様式で調査を行い、その内容を協議した。また、地研業績集についての解析も行った。

(1)地研の役割の具体例

この項では、水質、農薬、食中毒、感染症、その他に分けて最近の地研の果たしてきた役割をきいた。

 水質では水道法に基づく水質基準の改正に伴い、いずれの地研でも分析危機を整備し、新水質基準に従って検査を実施し、また技術情報の提供、研修指導等に努め、飲料水の安全確保に貢献している。

 農薬分野では、残留農薬基準の整備に伴い国内外産を問わず食品中の残留農薬の分析を実施し、特に一昨年の国内産米の不作時の輸入米検査には迅速な対応を行っている。また、一部の地研では効率的、系統的な農薬分析法の開発研究に取り組んでいる。

 食中毒に関しては、衛研の検査が大きな役割を担っており、近年の事件の広域化、大量化に対応している。また、病原性大腸菌やウイルス性の下痢症、貝毒等にも積極的に取り組んでいる。

 感染症については、特に近年海外渡航者による輸入伝染病の検索や、細菌性、ウイルス性の下痢症の原因究明を行い、流行阻止に寄与している。また、エイズの抗体検査も各地研での実施や、感染症サーベイランスの実施により、地域における感染症対策の技術的中核としての機能を果たしている。

 その他の分野としては、食品添加物、家庭用品、医薬品、先天性代謝異常の検査の他、一般家庭でのダニ抗原量調査、ユスリカ対策、アレルギー性結膜炎の原因解明、農民の食生活調査、油症患者の血液中PCB測定など、地域の衛生問題に着目した特徴のある調査研究が行われている。

 また、保健所に新たに設置された担当者や、食品衛生・環境衛生監視員に対する定期的な研修の他、医師、留学生、海外技術者の研修を受け入れることにより地研の内外を問わず、知識・技術の向上に寄与している。

(2)試験検査に関する機能分担について

 班員および研究協力者の県市における、衛生研究所、保健所、本庁および他の関連機関の4種の施設について、水質、食品化学、食中毒、細菌感染症、ウイルス感染症などの検査が、どのような機能分担のもとに行われているかを調査した。

 その結果、一般に衛研では検査・診断、解析・評価、再調査が機能の中心であり、一方、保健所では検体の採取・運搬、聞き取りが中心となっていた。また本庁では、企画と対策本部機能、解析・評価、再調査が必要な場合の計画立案を担当していた。この機能は通常時と緊急時で大差はなかった。

 検査機能の分担でみると、ほぼ衛研のみが検査を分担しているのは、食品化学の高度な検査、食中毒、ウイルス感染症であり、衛研が主として行っている検査は、細菌感染症、衛研と保健所の検査分担が半々なのは結核の検査であった。

(3)地研業績集の分析

平成元年度より5年度まで地研業績集として磁気化(FD化)されている12,829編の学会発表、論文等について、専門分野別、発表先別の分類およびキーワードにより研究分野別の特徴を探った。

 専門分野別に分けると、全体および県で最も多いのはウイルス、次に細菌(一部食品中の微生物も含む)であり、この両分野で全体の4分の1を占めた。次いで食品化学、環境衛生化学、水質汚濁と続く。市の地研では食品化学が最も多く、次いで臨床検査、水質汚濁、大気汚染の順となり、県とは異なる傾向を示す。

 業績の発表先は国内学会、所報、和文専門誌、外国専門誌、その他、一般雑誌・著書、国際学会の順であった。

 キーワードによる分析では、手技・手法に関してはHPLC、ガスクロマトグラフ、GC/MS、PCR法、疫学、マス・スクリーニング、ELISA等が多く出現し最新の分析手法が活用されていることがうかがわれた。また対象については食中毒、インフルエンザ、サルモネラ、農薬、酸性雨、大気汚染、食品などのキーワードが多く現れた。

 国内学会で最も多く発表されている公衆衛生学会(平成6年度総会)に関し、保健所と地研の発表を分析すると両者の発表分野では大きな差がみられた。すなわち地研は環境保健、食品・薬事衛生、感染症の分野で多く発表しており、保健所では衛生行政、老人医療、母子保健、健康教育などの分野の発表が多かった。

(4)保健所の調査研究と衛研の研究

 各班員を対象として、当該県市の保健所で行われている調査研究課題、発表学会、地研との共同研究について調査した。

 平成6年度は192課題が発表されており、主な分野は母子保健、栄養、精神保健、食品衛生、感染症、難病、医療福祉(6分野で全体の59%)、市では食品微生物、地域保健・地域医療、老人保健、食品衛生(4分野で全体の58%)と異なった傾向を示した。また発表先は地方で開催される学会が68%と最も多い。

 保健所の調査研究192課題のうち、衛研と共同して実施されたのは32件(17%)であった。また分野別では食品微生物、環境保健、食品化学、細菌、廃棄物、成人保健、ウイルスとなっている。

(5)衛研と他機関の共同研究について

 9地研で他の地研との共同研究を行っているものは5件、国立機関等との間のものは11件であった。共同調査研究には国の機関が関わる方がその体制ができ易いことが示唆された。そのテーマは細菌、ウイルス、疫学、食品、水質分野などであった。

 その他の連携方式(協議会、連絡会)等については計27件であった。これらは衛研間のものが大部分であった。

(6)本庁・保健所・衛研の機能分担および連携について

 現状および今後のあり方について各班員より意見を聴衆した。先ず調査研究については、これまで衛研と保健所の共同的な研究は一部に限られていたが、今後はより広範囲の協力関係が必要であり、特に健康と疾病の取り組みにおいて両者が一体となって実施すること、このため衛研の企画調整、研究、評価機能、疫学および情報部門の強化が必要とされた。またこれに必要な新たな枠組みについては本庁、地研、保健所が一体となって取り組み、企画・実行のために企画調整の機関を設ける必要があるとしている。

 検査機能については保健所との分担に関し各地研間に相当の差が存在するが、今後、地研としては新しい検査法の開発、規格基準のない物の検査、高度かつ専門的な検査、確認検査が重要としている。また保健所などの検査の精度管理、研修も重要な課題である。

 情報の問題については、地研として地域の情報センター的機能を目指し、関係機関とのネットワークを形成する。このため情報部門の強化や専門家養成、高付加価値情報の生産・提供につとめるとしている。また行政に対しシンクタンク的な役割を果たすこと、保健所の調査研究を解析面から支援すること、市民への情報提供も重要である。

 研修については衛研の業務の大きな柱とすべく、より体系的、総合的なものにすべきであり、このため研修計画やカリキュラムの作成、予算措置等が必要としている。また内容も技術研修にとどまらず課題発掘や問題解決能力開発、地域保健のフィールド研修等を行うべきである。

(7)検討協議会について

基本指針において本庁、保健所、地研等で検討協議会を置き、計画的に調査、研究等を実施するために必要な企画および調整を行うこととされているが、これについて意見聴取を行った。それによれば、施設間の機能分担と連携および計画的な調査研究方針の策定を主として検討し、協議会の構成は主として行政部局;衛研、保健所の代表をもってし、設置主体は行政主管部局とするというのが共通的なものであった。

3.今後の課題

 地域保健法が成立し、その基本指針が打出され、県と市町村の役割分担が変わり、その体制の整備が論議され準備されている現段階において、地方衛生研究所としての課題は大まかに次の4点に要約されると考えられる。

(1)県・市の役割分担の変化に応じた業務の見直し

(2)それに必要な組織の再編、特に企画調整、情報、疫学、研修部門など

(3)保健所・市町村保健センターとの具体的な業務連携のビジョン

(4)行政部局、衛研、保健所が一体となって地域保健に取り組む検討協議会などの体制づくり

 

 今年度の研究ではこれらのことを念頭において全国調査および班員間の調査・協議を行った。それによれば、各地研は将来計画の策定など全体として改革の方向へ向かっての努力を行っているが、未だ各県市で地域保健の新たな体制の構想が明らかになっていないこともあり、具体的な着手にまでは至っていないといえよう。

 地研が調査研究や試験検査とともに、情報の収集・提供、研修の機能が大きな業務の柱であるという構図は、今後も大幅な変化がないと考えられるが、保健所との関連をみる時調査結果でも示したように、地研はどちらかというといわゆる対物の方にかたよっており、一部の地研を除いては対人関係の業務にはあまり手をつけていなかったということがあるといえよう。

 従って今後の具体的な課題としては、行政部局や関係機関との協議のもとに地域保健ニーズの的確な把握を行い、保健所や市町村保健センターの業務や調査研究との連携を十分考慮に入れ、対人関係の調査研究の強化(叉はシフト)を積極的に行い、このために必要な疫学や情報・研修関係の体制整備を行うということになろう。

 今後、研究班としては特に地研と保健所の連携のあり方と、地研としてこのために整備すべき点につき焦点を絞り、

(1)本庁・地研・保健所が一体となって地域保健を推進するために、検討協議会において協議すべき内容とその組織のあり方について

(2)保健所と地研が共同研究および研究支援を広げていくべき研究テーマの抽出について

(3)上記のために必要な衛研側の企画調整・疫学情報部門の強化や保健所との研究情報ネットワークのあり方等

 などについて行政部局の意見も聞きつつ調査を進め、全国各地研に対し必要な資料提供と、提言を行いたい。

 



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