小規模事業所における総合的健康管理等の方策に関する調査研究
1997年度 報告書

小規模事業所における
総合的健康管理等の方策に関する

提  言



1998年3月
大阪府立公衆衛生研究所




< は じ め に >


小規模事業所が占める位置
 我が国においては小規模事業所に働く人々が被雇用者の三分の二を占める。小規模事業所における労働衛生管理の推進が、我が国における労働者の健康の保持増進に重要な位置を占めて当然と言える。しかしながら、我々の1996年度調査に見られたように、小規模事業所における労働衛生管理は不十分な状態にある。ILOが目指すように「すべての労働者に産業保健サービスを提供する」ことを目標とすれば、大きな努力が必要である。問題が多い業種や分野を対象にして目標を定め、段階的に達成し、そして分野・業種を広げてゆく戦略が必要であろう。

経営にとってのメリット
 労働衛生管理を進めて健康障害を予防することは、労働者にとってはもちろんのこと、事業者にとって、デメリットを防止する意義があることは言うまでもない。従業員の定着による技能的・技術的な向上と教育コストの削減、良好な健康状態による労働者の欠勤の減少、およびこれらに基づいた良好な人間関係などによる生産性の向上が期待できるというメリットが、事業者が労働衛生管理を推進する魅力になろう。

情報化と労働者・事業者
 今日の日本社会が情報化社会と言われて久しいが、小規模事業所における労働衛生管理に必要な情報は収集・提供されていない現状にある。とりわけ労働者は各自の仕事の安全性について正確な情報を「知る権利」があり、労働衛生管理はこれらの情報の入手と提供から始まると言っても過言ではない。零細な事業所では、事業者も労働者と類似した立場に置かれていることから、事業者も同様に情報を得る環境を形成して行く必要がある。

小規模事業所の特徴を踏まえた方策
 小規模事業所の活動自体が地域に密着している場合が多く、働く労働者も事業所の近くに住む場合が少なくない。このような地域密着型の性格は小規模事業所の特徴であり、その性格を生かし、対応した方策が必要である。小規模事業所における労働衛生管理においては、事業者・労働者などの当事者のみならず、都道府県や市町村など自治体の関与が不可欠である。
 また、小規模事業所における労働衛生活動が、その内部で完結することは困難で、外部の様々な機関の活動によって成り立つ。小規模事業所において健康への関心は高いが、安全への関心は一層高く、安全と健康を結びつけた活動が必要である。
 一方、今日の労働衛生管理の方向は、法律準拠から自主対応へと変化しつつある。このことからも、小規模事業所における労働衛生管理の能力を可能な限り強化し、参加型の活動を進める必要がある。

提言の構成
 本提言は、これまでの調査結果や、関係する各種団体・有識者などからの意見聴取も参考にして、作成したものである。
 この中では、小規模事業所における労働衛生管理の推進には、情報化・自主的労働衛生管理活動・ネットワークの形成・労働衛生管理の能力の向上・サポートなどが重要と考えられる。これらをある程度具体化する形で提言を述べる。



提 言 の 要 約


T.必要な情報の提供と労働安全衛生教育を充実する
1.公共・公的機関が、労働安全衛生管理に関する情報を様々な方法で提供する
2.労働安全衛生に関する相談に対応する体制を強化する
3.労働者・事業者への教育、資格取得のための教育システムを充実・強化する
4.インターネットを用いた双方向性の情報提供をおこなう 

U.自主的な労働衛生管理活動を促進する
1.自主的なリスク評価とそれに基づく労働安全衛生管理活動を促進する
2.労働者・事業者双方の参加による活動を進める
3.事業者団体・労働団体などによる安全衛生巡視をおこなう
4.事業者・労働者・安全衛生担当者の地域レベルでの交流をおこなう

V.関連機関によるネットワークを形成する
1.地域産業保健センターを中核とする連携によりネットワークを形成する
2.ネットワークにより、啓発・情報提供・健康教育・健康診断など労働衛生管理活動の企画・調整を連携しておこなう。
3.商工会議所・商工会や同業組合などへの加入により小規模事業所の組織化を図る

W.労働衛生管理の能力を高める
1.労働衛生管理に関わる人をふやす
2.作業環境測定結果および一般健康診断の報告義務を設ける
3.既存労働衛生機関の予防的な活動を拡充・強化する
4.地域産業保健センターを常設化して活動範囲を拡充し、機能を強化する
5.事業所は集団あるいは個別で契約する担当産業医をおく

X.労働衛生に関わる人材を育成する
1.衛生管理者、安全衛生推進者、各種作業主任者など事業所内の要員を育成する
2.小規模事業所をサポートできるよう、労働衛生専門家 Industrial Hygienist、労働人間工学専門家 Industrial Ergonomist などの新しい労働衛生職種の資格を設けて養成する

Y.有害・負担作業の管理を充実する
1.化学物質に関するMSDSや機械などに関する安全衛生情報をユーザー労使へ提供する
2.職場のリスク評価をおこない、それに基づいて衛生推進者・衛生管理者・産業医の労働衛生管理活動時間などの量を決定する
3.リスク評価の方法やモデル的な事業所での改善案を提供する
4.小規模事業所向けの安全衛生工学技術を育成する
5.安全衛生巡視を充実する 

Z.一般健康管理を充実する
1.健康診断の実施においては、事業所の近くでの巡回集団健康診断、公共・公的機関の健診の充実、健診実施に財政的な補助、などをおこなう
2.事後措置においては、地域保健機関や地域産業保健センターによる受診指導・保健指導を充実し、仕事への配慮を「担当産業医」が助言する
3.健康づくりは地域保健の中でおこなう

[.行政による支援を進める
1.助言を主とした労働安全衛生に関する指導をおこなう
2.労働安全衛生に地方自治体も関与する
3.労働安全衛生管理活動に関わる財政的なサポートをおこなう
4.安全衛生管理体制の整備、MSDSの法制化、リスク評価の制度化などをおこなう
5.メリットシステムにより制度の浸透を図る