<小規模事業所における総合的健康管理等の方策に関する提言>
W.労働衛生管理の能力をたかめる


  調査結果などからも、小規模事業所内における労働衛生管理体制は脆弱であることは明らかである。小規模事業所外部の機関においても、健康管理に偏重した体制であるため事業者のニーズとはズレがあり、総合的な健康管理をおこなうには不十分である。小規模事業所と外部機関とをつなぐ役割が期待される地域産業保健センターにしてもその位置づけや体制がいまだ不十分である。これら3つの構成部分のバランスがとれた労働衛生管理の能力の向上が、総合的な健康管理の推進には不可欠であろう。とりわけ、小規模事業所内部の能力の向上は、自主的活動の推進と相俟って、小規模事業所における総合的な健康管理の定着に貢献するであろう。


1.労働衛生管理に関わる人をふやす

  現在では選任・設置義務がないなどにより不十分な小規模事業所内部における労働衛生管理体制を強化・充実する。
(1)安全衛生委員会を、10人以上事業所、さしあたって30人以上事業所において設置する
  設置により、労働者の関心・意識が向上し、小規模事業所内部における労働衛生管理活動のチェック機能を果たし、委員自身が小規模事業所内部における労働衛生管理の推進力になる。
(2)30人以上事業所での衛生管理者の選任
  推進者に比べより高度の知識・経験を身につけた衛生管理者により、労働衛生管理活動の進展が期待される。30人以上事業所では可能かつ必要であろうし、事業所内での選任は、外部の産業医などの選任に比べて事業所の負担が少ないと考えられる。
(3)安全衛生推進者・各種作業主任者の選任を徹底する
小規模事業所における労働衛生管理活動の進展の軸となる人材である推進者、有害危険作業の安全衛生管理活動の進展の軸となる人材である作業主任者を養成・配置することを徹底させ、労働衛生管理を推進する。


2.作業環境測定結果および一般健康診断の報告義務を設ける

  現在、一般健康診断はすべての事業所に実施義務があるが、50人未満事業所においてはその結果の報告義務が課されていない。作業環境測定については、該当作業がある場合は測定の実施義務はあるが、結果の報告義務は課されていない。後者については改善などが必要とされながらも改善が進まないためにその意義に疑問がもたれる場合さえある。健康障害の発生予防の観点からこれらの報告義務は大きな効果をもたらすと考えられる。


3.既存労働衛生機関を強化する

  既存の多くの労働衛生機関は、健康管理とりわけ一般健康診断に重点を置き、重装備型である一方、職場で起きる作業起因・作業関連疾患や作業方法・作業環境改善に対応し切れていない。これを健康障害の予防を指向するように改革する。
(1)職場巡視、労働衛生・健康教育、作業方法・編成の評価、作業環境測定、改善対策指導などの機能を持ち、健康障害の予防の役割が果たせるように、また、産業医との連携を取りながら事後措置を行えるように充実する。
(2)韓国では、労働衛生機関などが代行サービス機関として小規模事業所の労働衛生管理を代行する制度がおこなわれているが、我が国においても検討する価値があろう。


4.地域産業保健センターを強化・拡充する

  現状では知名度も低く、来所相談は大変少ないなど様々な問題がある。また、医師会への委託事業のため健康管理に活動内容が限定されやすいので、総合的であるべき労働衛生管理には不十分であるなど限界がある。これを解決するためには、以下のような充実と機能拡大が必要と考えられる。
(1)地域における労働衛生管理のネットワークの中核、情報の発信源に位置づける
(2)常設化と機能の拡充
  地域センターによって様子は異なるが、週替わり、あるいは年替わりで医師会をまわる場合もあり、相談などがあっても十分には対応できていない。常設化はこの事業を発展させる上で不可欠である。現状のサービスでは小規模事業所の要求に十分には応えられていないので、調査結果に表れるような機能拡大が期待される。したがって、職場巡視、安全衛生点検、作業方法・編成の評価、心の健康対策を実施し、改善対策の相談に応じて助言をおこない、郡市区医師会の健診事業との協力・連携して一般健康管理にも寄与する。電話、ファックス、インターネットなど多様な方法による相談への対応も必要である。
(3)対象エリアと設置主体
   現状の労基署管内では広すぎ、地域に密着したきめ細かな活動ができない。郡市医師会などに連絡窓口を設置すれば、市町村、単位商工会議所・商工会、医師会との関係が整理され、医師会がおこなっている健診事業との連携が容易になるなど利点が多い。また、エリア内の小規模事業所の数に応じた事業量を検討する必要がある。
(4)労組・商工会議所などサービスを受ける側も運営協議会に参加する
  これにより、労使参加型の労働衛生管理活動を地域センターにおいても生かすことができ、広報効果も期待できる。
(5)市町村広報への掲載、医師会員医療機関でのポスター掲示などPRの工夫
これまでのPRの取組は狭い範囲に限定されていた。これを自治体広報に掲載するなど誰でもが見るものに掲載することによりPR効果を高める必要がある。PRは自治体から得られる重要な協力である。
(6)産業保健推進センターによるバックアップ体制
現在、推進センターは地域産業保健センターをバックアップすることとされたが、それ自体の体制も非常勤相談員に依存するなど、十分とは言えない。専任相談員などで強化することにより、小規模事業所における様々な問題についてもバックアップが可能となる。


5.すべての事業所が集団あるいは個別で契約する担当産業医が必要である

  すべて(または一定規模、例えば10人以上)の事業所は産業医と集団または個別で契約を結び、サービス内容・報酬はリスク評価(前提条件)で決まる担当産業医制を設置する。大部分の小規模事業所をカバーした労働衛生管理活動は、現行法で規定された方法ではなく、リスク評価とそれに対応した産業医活動とを前提とした柔軟な方法でなければ実行困難であり、また非効率的である。訓練された産業医という意味では、産業衛生学会の専門医も含まれるべきである。