<小規模事業所における総合的健康管理等の方策に関する提言>
Y.有害・負担作業の管理を充実する


 調査結果では、小規模事業所の中で、粉塵、有機溶剤など有害物のある事業所は14%、騒音、振動など有害物理因子のある事業所は18%である。また、VDT作業、重量物取り扱い、不良姿勢など負担作業のある事業所は66%に及んでいる。これら有害・負担作業による健康障害の発生を予防することは事業主の責任である。この点を明確にした上で、小規模事業所による予防対策の実施を容易にするため、有害・負担作業に関する情報の提供、職場のリスク評価と職場改善の手助け、そして行政や民間組織による指導・相談・支援が必要である。


1.有害・負担作業に関する情報を知らせる

1-1.
化学物質安全データシート(MSDS)制度の徹底
  有害物による健康障害を予防するためには、有害物の毒性情報を知ることが不可欠である。有害物の製造・販売会社は、製品に含まれている有害物の種類と毒性を最もよく知っており、また、有害物を使用している事業所と頻繁に接触する立場にあるので、毒性情報を提供する主体となるべきである。現在、労働安全衛生法による有害物表示義務、労働大臣告示によるMSDS制度などにより、毒性情報をユーザーに知らせることが、製造・販売会社には義務付けされている。しかし、現実には小規模事業所へのMSDSの提供が不十分であり、この制度の更なる徹底が必要である。また、MSDSが提供されている場合でも、記載内容が分かりにくく、提供すればそれで事足れりというのが実状である。この制度を普及させるためには、製造・販売会社にユーザーへの教育専門部門を置き、ユーザーを回っての説明やユーザーを集めての説明会(成分、毒性、法的規制、代替品)などの実施が必要であろう。

1-2.
産業用機械類の製造・販売会社による情報提供
  産業用機械は大きな騒音や振動などを発生し、それが難聴や振動障害などの原因となることがある。また、機械類を使用する場合、作業の仕方によっては(不良姿勢、重量物取扱いなど)、腰・肩・腕など身体への過度の負担作業となり、腰痛や頚肩腕障害などを発症することがある。ユーザー事業者は、このような健康障害に関する情報を知らないことが多い。したがって、製造・販売会社は、健康障害や予防対策(設備の配置、作業の仕方、連続作業時間、保護具、休憩の取得など)に関する情報を販売時に提供することが必要である。

1-3.
高リスク作業の発注に伴う情報提供
有害・負担作業を含む業務を発注したり、下請けに出す場合、関連する労働安全衛生管理を含む情報を提供する。逆に、受注側・下請側が経験したヒヤリ・ハットなどの情報を発注元に伝え、発注元の情報を豊かにし、他の受注・下請事業者への安全衛生に資する。

1-4.
労働者の知る権利の確保が対策のかなめである
  労働者が有害・負担作業に関する情報を知ることを恐れる事業者が多い。しかし、有害・負担作業による健康障害を防ぐためには、労働者自身がその有害性を知っておくことが極めて重要であるし、また、それは労働者の権利でもある。労働者に対する説明が不十分で結果的に健康障害が発生すれば、労働者にとっては勿論、事業者にとっても大きな損失となる。したがって、有害・負担作業に関する情報を労働者に提供し、予防のための基本的な考え方を教育することが必要である。

2.職場のリスク評価と職場改善

2-1.
小規模事業所に適した労働衛生管理体制の設置
小規模事業所には様々な形態があり、現行法令に定められた労働衛生管理体制とその活動内容は必ずしも実状にそぐわない。事業所ごとに、職場にあるリスク(危険作業、有害化学物質、有害物理因子、負担作業、精神的ストレス、長時間労働など)を、チェックリストに基づいてリストアップし、それぞれの程度を評価する。このリスク評価の結果に基づき、その事業所に適した管理体制と活動内容を決定し、また、産業医や労働衛生管理専門家などの選任と活動内容も決定するといったやり方が必要である。

2-2.
リスク評価の方法と職場改善案の提供
(1)チェックリストおよび改善事例集の作成
小規模事業所において労働衛生上のリスク評価を行う場合、多角的な観点を網羅したチェックリストが有効である。小規模事業所で簡便に利用できるチェックリストとその手引書を作成し提供する。今後においては、インターネットを用いるのも有効であろう。また、具体的な職場改善は、各事業所だけでは十分検討できないことも多く、これまで報告されているものを系統的にまとめ直し、パンフレット、講演、研修、インターネットなどで紹介する。
(2)モデル事業の実施
  作業環境が悪い業種や負担の大きい作業はある程度わかっているので、モデル事業として 対策を検討する。具体的な事業所を選び、専門家(労働衛生機関、大学・研究所)、設備会社が共同で低コストで効果的な改善を検討・実現する。

3.小規模事業所向けの安全衛生工学技術の育成

  作業環境改善や作業方法の改善をおこなうに当たり、適度な大きさで小回りがきき、安価な小規模事業所に適した安全衛生に関わる設備は、現状では不十分である。これらの技術を育成する必要がある。


4.職場巡視の展開

  事業所への立ち入り・指導は、本来、労働基準監督官の仕事であるが、事業所の数に比べて監督官の人数が足りないと言われている。一方、労災防止員や労働組合の中には、チェックリストを使った職場点検の実施など、安全衛生に熱心に取り組んでいるところがある。また、地域産業保健センターでは、事業所の巡回指導などを行なっている。これらを体系化し、各地域で、地域産業保健センターや労働組合が中心となり、労災防止員,産業医,専門家などで構成した巡回視察団をつくり、定期的に地域の事業所を巡視し、問題点や改善点、あるいは改善方法について事業主,労働者とともに検討する。また、参考となる改善事例があれば、上記の改善事例集の中に活かしていく。このような活動を保証するため、労災防止員の人数や日当を増やし、さらには十分な知識経験をつむための教育・研修が必要である。