提 言

地方衛生研究所の役割と保健所との連携のあり方

平成9年3月

主担

大阪府立公衆衛生研究所

分担

群馬県衛生環境研究所

仙台市衛生研究所

東京都立衛生研究所

神奈川県衛生研究所

大阪市環境科学研究所

兵庫県立衛生研究所

広島市衛生研究所

福岡県保健環境研究所

 

 


目 次

1.はじめに

2.地方衛生研究所の持つべき機能と組織

     1)調査研究

     2)試験検査

     3)研修指導

     4)公衆衛生情報等の収集・解析・提供

3.今後強化すべき機能と体制

     1)対人関連分野の調査研究の強化

     2)精度管理・レファレンス活動の推進

     3)情報関連機能の充実強化

     4)調査研究等の企画調整と組織の強化

     5)危機管理の観点からの体制づくり

4.保健所等との連携

     1)保健所との共同事業

     2)検討協議会

 


1.はじめに

地域保健の原点は「住民の健康維持・増進と生活の安全確保」にあり、そのために行政は様々な施策を講じるが、それらは科学的・技術的な基盤に基づいて行われねばならない。地方衛生研究所は、その科学的・技術的基盤を担うために不可欠な機関である。

地域保健法に伴い策定された基本的な指針(平成6年12月)によれば、地方衛生研究所は、「地域における科学的かつ技術的に中核となる機関として再編し、その専門性を活用した地域保健に関する総合的な調査および研究を行うとともに、当該地域の地域保健関係者に対する研修を実施すること」と、その基本的機能が明記されている。

また保健所においても、「快適で安心できる生活の実現に資するため、地域の抱える課題に即した、先駆的又は模範的な調査および研究を推進すること」とされたほか、「所管区域に係る保健、医療、福祉に関する情報の収集、管理、分析と関係機関および地域住民への提供、住民からの相談に総合的に対応できる情報ネットワ−クの構築、およびこのための情報部門の強化」が求められている。

さらに、関係機関の連携については、「関係部局、保健所、地方衛生研究所等による検討協議会を設置し、計画的に調査、研究等を実施するために必要な企画および調整を行うこと」となっている。

本研究においては、このような変革にあわせ、地方衛生研究所の今後のあり方、および特に保健所との連携について調査研究し、考察を行った。ここで浮かんできた課題は大要以下のとおりである。

1)保健所との共同研究はこれまで一部に限られたものであった。今後これを拡充する必要がある。

2)これまで地方衛生研究所の研究も、また保健所との共同研究も対物部門に限定されていた。今後は両者で健康問題に取り組むことが必要である。

3)そのためには地方衛生研究所の企画調整、研究、評価機能、疫学および情報部門の強化が必要である。

4)研究の課題設定、計画策定、実行および評価のためには本庁を中心とした企画調整の場(検討協議会)が必要である。

5)検査機能の分担については、今後保健所と調整することが重要である。また検査報告については付加価値の高いものとすることが求められる。

6)地方衛生研究所が地域の情報ネットワ−クのセンタ−的役割を担うことが期待される。さらに国立試験研究機関とのネットワ−ク構築につとめる。

7)保健所の行う調査研究を解析面で支援すべきである。また住民への積極的な情報提供に努力する。

8)情報の収集加工などを通じ、政策立案のための基礎資料の提供や提言など、シンクタンク的役割を追求すべきである。

9)研修についても、その位置づけ、カリキュラム、予算など課題があり、地方衛生研究所の業務の柱として今後より体系的なものをめざす必要がある。

10)各種業務の展開にあわせ、地方衛生研究所職員の質の向上をはかるために、職員研修等を積極的に行う必要がある。また必要に応じ本庁、保健所等との人事交流を図るべきである。

またこの間、サリン事件、腸管出血性大腸菌やクリプトスポリジウムによる集団感染事例など、危機対応の必要な事例が生じた。このような危機に対しては、即時対応の可能な体制の整備とともに、「住民の健康維持・増進と生活の安全確保」のためには健康被害の予知・予防も重要である。そのためには、各種感染症や有害化学物質等に対する先見的な調査研究、予防的な行政施策の提案と市民に対する啓発等を行う必要があると考えられる。

 これらのことを踏まえて、新たな地域保健体系における地方衛生研究所の役割と保健所との連携のあり方を検討し、以下にまとめた。なお、本提言は平成9年3月14日厚生省発健政第26号による厚生事務次官通知「地方衛生研究所の機能強化について」で改訂された「地方衛生研究所設置要綱」に準じた上で具体的な内容を検討するとともに、今後特に強化すべき事項についても検討した。

 

 本提言は、平成6年度〜8年度の厚生科学研究費補助金による「地方衛生研究所の機能強化に関する研究:主任研究者、大月邦夫、群馬県衛生環境研究所長」の分担研究「都市における地研の役割と保健所との関連について:分担研究者、江部高廣、大阪府立公衆衛生研究所長」の成果を中心に作成したものである。研究報告書(平成6〜8の各年度版;大阪府立公衆衛生研究所発行)とあわせてご覧願いたい。

 また、3カ年の間で、一部の分担研究者または研究協力者が交替しており、提言の作成にあっては表紙に記述しているものの他に、小町喜男氏(前大阪府立公衆衛生研究所長、分担研究者)、倉科周介氏(前東京都立衛生研究所長)、小場正彦氏(前仙台市衛生研究所長)の多大な貢献によるところが大きい。

 

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2.地方衛生研究所の持つべき機能と組織

 事務次官通知「地方衛生研究所設置要綱」には、地方衛生研究所の業務を、1)調査研究、2)試験検査、3)研修指導、4)公衆衛生情報等の収集・解析・提供の4つとするとともに、それらの運営に際しての関係各部局の連携と人員の確保および施設設備の整備が述べられている。これに準じ、以下に主要機能のあり方を具体的に述べた。

 

1)調査研究

 公衆衛生上の問題や事象(感染症、化学物質汚染と人体影響など)および事件・事故(サリン、コレラ、セアカゴケグモ、腸管出血性大腸菌など)に対し、疫学・実験学・分析学的手法などを用いて原因究明や状況調査を行うことにより、拡大化の防止や医療への支援などを行ういわゆる緊急時の機能のほか、平常時に行う分析・診断技術の開発や将来予測・予知等の機能は、いずれも行政の科学的判断材料を提供するものであり、試験検査機能とならび地方衛生研究所の最も基本的な機能である。

@調査研究の内容と考え方

調査研究の内容として、設置要綱には以下の11項目が記載されている。

 1)疾病予防に関する調査研究

 2)環境保健に関する調査研究

 3)生活環境施設に関する調査研究

 4)食品及び栄養に関する調査研究

 5)医薬品等に関する調査研究

 6)家庭用品、化学物質等に関する調査研究

 7)健康事象に関する疫学的調査研究

 8)健康の保持及び増進に関する調査研究

 9)地域保健活動の評価に関する調査研究

10)試験検査方法に関する調査研究

11)その他必要な調査研究

 

 これらの調査研究を進めるにあたっては、次の点に留意すべきであろう。

 1)問題・事件解決型の調査研究に加え予見・先見・予防型研究が重要である。

 2)感染症サーベイランスや未規制物質のモニタリング等の継続的な監視も重要である。

 3)これまで中心的であった対物関連の調査研究に加え、対人関連の調査研究を強化し疫学的研究を推進することが必要である。

 4)広域的かつ大規模で系統的な調査研究を可能にするには、常日頃からの保健所・本庁等との連携が必要である。

5)広域的な調査研究については、地方衛生研究所相互間または国や大学などとの協力の強化が必要である。

 

Aニーズの把握

調査研究を行うにあたって様々なニーズの把握手法が考えられるが、基本的な方法として以下を掲げることができる。

 1)住民ニーズの把握を情報収集機能や基本指針でいう検討協議会の調査研究部会等を活用して行う。

 2)平常時の試験検査結果から調査研究課題を見い出す。そのため、試験検査結果に対して常日頃から専門的な解析・評価を加え、そこから発生する新たな調査研究課題の発掘に心がける。

 3)他自治体あるいは諸外国で発生している公衆衛生上の事象等を専門学術雑誌等から把握し、検討課題とする。

 

B企画調整と実施体制

ニーズ・シーズを受けて調査研究の企画・調整・実施に移行するが、以下の方法等が考えられる。(後章でも記述)

 1)外部有識者を加えて全体的な研究方向・方針を設定する。

 2)本庁・保健所と連携して取り組む課題を検討協議会(調査研究部会)等で調整し、実施する。

 3)所として取り組む課題を内部の研究課題設定会議等で検討し、実施にあたっては横断性を持たせ有機的連携により成果の向上を図る。

 4)国立試験研究機関・大学・民間機関等との連携も積極的に推進する。

 

C評価

調査研究の実施状況および成果に関する評価は不可欠なものであり、次の方法等により推進することが提案できる。

 1)専門学会、専門雑誌、研究報告書等による成果の報告を積極的に行う。

2)検討協議会の場を活用する。

 3)内部評価に加え外部有識者の評価を受け次の調査研究に反映させる。

D成果の還元と施策への反映

調査研究の成果を以下方法等により住民や施策に反映させるべきである。

 1)住民への成果の還元をパンフレット・リーフレット・ホームページ等により実施する。

 2)公衆衛生関係者に対しては、事業報告、セミナー、ニュース等で実施する。

3)検討協議会等の場を活用し、施策の企画立案と事業化など、シンクタンク機能を発揮して施策への反映を図る。

 

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2)試験検査

 試験検査は、公衆衛生行政の基盤となる科学的・技術的データを提供するとともに、公衆衛生上の事故・事件等の解決にも不可欠である。また、調査研究と並んで地方衛生研究所の最も基本的な機能であり、調査研究と試験検査とは互いに不可分の関係にある。

@試験検査項目とその性格

設置要綱では、以下の15項目を掲げ、その実施にあたっては研究要素の大きいもの、広域的な視野を要するもの、専門的かつ高度な技術や設備を必要とする試験検査を重点的に行うこととしている。

1)衛生微生物等に関する試験検査

2)衛生動物に関する試験検査

 3)水、空気等に関する試験検査

 4)廃棄物に関する試験検査

 5)食品、食品添加物等に関する試験検査

 6)毒物劇物に関する試験検査

 7)医薬品等に関する試験検査

 8)家庭用品等に関する試験検査

 9)温泉に関する試験検査

10)放射能に関する試験検査

11)病理学的検査

12)生理学的検査

13)生化学的検査

14)毒性学的検査

15)その他必要な試験検査

 これらの項目について、保健所等からの依頼検査や規格基準のないものの検査を行うほか、研究要素の大きい試験検査、広域的な視野を要する試験検査、専門的かつ高度な技術を必要とする試験検査、あるいは、先端技術を応用した新しい検査法の開発も行うべきである。

A企画立案

試験検査の企画調整は、以下のように行うことが考えられるが、企画立案から実施・解析までの一貫した取り組みの体制が必要である。

 1)行政検査を検討協議会の分科会等で企画立案し、実施に向けた調整を行う。

 2)公衆衛生上の危機発生時など緊急の試験検査の際は、対策会議等での専門的な観点からの企画立案に参画する。

 

B精度管理

精度管理により試験検査能力の全国的水準の確保を図り、結果の信頼性の向上を目指すほか、全国のどの地域で公衆衛生上の問題や事故が発生しても自力での対処・解決を可能にするべきである。

そのために、国立試験研究機関と連携して、地方衛生研究所内および保健所等に関する精度管理委員会・精度管理実施要綱等とともに、分野・対象別のマニュアルを策定し推進することが望ましい。(詳細は、後章に記述)

 

CGLP準拠

地方衛生研究所で行う試験検査は、全般的にGLP準拠を目指すが、食品分野に関しては、食品衛生法施行令等の一部を改正する政令(政令第109号、厚生省)を受け、平成9年度から対応する。

 実施に向けて留意すべき点を以下に掲げる。

 1)試験検査の業務管理要領等を策定し、責任者別業務内容(信頼性確保部門責任者、検査部門責任者、検査区分責任者)および役割分担を明確にする。

 2)信頼性確保部門を独立部門として新設し責任者を配置する。

 3)自治体内の関連機関、特に保健所等との連携はもとより、国との連携も図る。

 4)試験検査マニュアルを作成し、それに準じて行う検査の工程を記録する。

 5)検査精度を確保するために内部精度管理を実施するほか、必要な場合は関連機関の外部精度管理も実施する。

 

D試験検査結果の活用

 試験検査結果の報告に際しては、シンクタンク機能を発揮するよう専門的な評価を付記して還元し、検査企画や施策立案に反映させるべきである。また、試験検査結果はデータベース化を図り、必要に応じ行政や住民への情報提供を行うほか、健康被害の予知・予測にも活用するべきである。

 

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3)研修指導

 高度な試験検査や先見的な調査研究によって得た成果や技術を還元し、公衆衛生の向上および公衆衛生関係者の技術向上を目指す。その際、研修における国・地方衛生研究所・保健所の役割を明確化する必要がある。

 また、各種機能の向上や国際化への対応のためには所員の研修が必要であり、資質の向上や新たな視点での事業展開等を図るためには人的交流も重要である。

@対象と種類

住民および国内外の公衆衛生関係者に対して以下の研修指導を行う。

1)住民を対象にパンフレット、ニュース、ホームページ、公開セミナー等により健康維持および生活の安全確保に有用な情報を提供し、公衆衛生の維持・向上に努める。

2)公衆衛生関係者に対しては、初任者、中堅者を対象に検査法、診断法、疫学、情報、GLP等に関する研修指導をカリキュラムに基づいて行うほか、緊急時研修(O-157等の事件に際しての検査技術研修)やセミナー形式による研修指導も実施する。(精度管理と関連)

 3)民間企業およびJICA等を通じた海外研修者に対しても要望に積極的に応じる。

 

A基盤整備

 研修指導のための年間カリキュラムを分野別・対象者別に作成するとともに、実施に必要な研修室、実験室、研修用備品等の整備を行うべきである。

 

B企画調整

 カリキュラム・年度計画の策定および海外等からの研修者の受け入れに関しては、検討協議会等で検討を図る。また、研修指導と精度管理およびGLP対応は密接な関係にあるので、この点を十分に考慮して行う必要がある。

 

C所員研修

 所員の人材養成と資質向上のために、海外派遣研修や地方衛生研究所・大学等での研修を制度化するとともに、国立試験研究機関による研修にも積極的に参加する。また、所内の研修(新人研修)の制度化も必要である。

D人的交流

 資質の向上と適材適所による人材の活用、さらにマンネリ化からの脱却を図り、識見を広くして新たな視点での事業展開を図るために、部門間あるいは保健所や本庁等との交流が必要である。

 但し、専門性の低下や調査研究の継続性を阻害しないよう十分な配慮が必要である。

 

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4)公衆衛生情報等の収集・解析・提供

 情報機能は各種機能を向上させるために不可欠な共通的・基盤的機能であり、所内はもとより本庁・保健所・地方衛生研究所間・国立試験研究機関等との連携強化や緊急時の迅速対応を可能にする。また、関連機関の情報をも収集し解析・評価を行うことにより、付加価値情報を発しうるインテリジェント機能を保有し施策への反映を図るとともに、地方での情報ネットワークの拠点を目指す。(詳細は後章に記述)

@基盤整備

 1)国および地方衛生研究所間のネットワーク

  現時点では厚生省のWISH-NETが有効と考える。将来的には、インターネットの WWWブラウザ上で稼働するネットワークを形成し、電子掲示板・会議室などを活用してイントラネットの構築を目指す。

 2)所内LAN

  情報ネットワークの形成には職員各個の参加が不可欠であり、所内のネットワークを拡大するよう努力するとともに、将来的にはインターネットと所内LANとの融合を図っていく。

 3)本庁・保健所等の関連機関とのネットワーク化と機能分担

  各自治体で独自に構築しているネットワークあるいはインターネットによる関連機関のネットワークを構築する必要がある。

 4)情報部門の強化、専門家の養成

 マンパワーの確保のほか専門家の養成を行い、情報分野の企画・運営を強化する必要がある。

 

A情報収集

 1)公衆衛生関連情報

  所内、本庁、保健所、国、地方衛生研究所から、検査・研究に関する専門情報や施策、法令、行事等の情報を収集しデータベース化すべきである。

 2)健康事象関連情報

  疫学的調査研究事業により生み出される専門情報をデータベース化し、地域診断のための解析を行い施策に反映させるべきである。

 3)高度専門情報の収集

 調査研究を推進するために必要な各種高度専門情報を個別に収集しているが、これを共有化データベースに蓄積すべきである。

 4)緊急時必要情報

  公衆衛生上の問題・事故・事件の発生時に、必要な情報を速やかに収集・整理し、本庁・保健所等の関連機関に提供・発信する必要がある。

 

B情報の共有化

 1)データベースの活用

  検索・加工が可能な共有化データベースを構築し、所内はもとより地方衛生研究所間、本庁、保健所および大学等の関連研究機関との共同利用を可能にすべきである。

 2)イントラネットの推進

  特定の関係者間で利用するイントラネットを推進し、情報の共有化と活用を図るべきである。

 

C解析・評価

 各種データの解析によりinformation(情報)をintelligence(高度付加価値情報)とし、以降の事業計画および施策への反映を図るべきである。

 

D情報発信

 1)専門情報

  データベースを活用し、所内はもとより本庁、保健所、地方衛生研究所、国立試験研究機関等の関係機関へ専門的な情報を提供する役割を担うべきである。提供方法としては、ニュース、メール、掲示板、ホームページ、研修・研究会等による。

 2)健康情報

  一般住民向けに、健康の維持・向上並びに生活の安全確保のために有用な情報をニュース、ホームページおよび研究所の公開行事等により提供するべきである。

 

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3.今後強化すべき機能と体制

 地域保健法を受けて新たな体系での地方衛生研究所の機能を発揮するためには、そして今後、保健所等との連携を進めていくためには、以下に示す対人関連分野の調査研究の強化、精度管理・レファレンス活動の推進、情報関連機能の充実強化、調査研究等の企画調整と組織の強化および危機管理の観点からの体制づくりの必要があると考える。

 なお、これらの機能や組織の強化のためには以下のような条件が必要である。

  ・人員の確保および人材の養成

 ・業務の明確化

 ・研究職(技術職)のロ−テ−ションと処遇

 ・財政的基盤

 

1)対人関連分野の調査研究の強化

@対人関連分野の強化

 これまで地方衛生研究所の調査研究や試験検査は、対物中心であったが、今後の新たな地域保健の展開にあたっては、行政部局や保健所・市町村保健センターとの協議のもとにニーズの把握を行い、対人分野の強化を図っていくべきである。

 

A健康関連調査研究分野の推進

 このためには疫学部門を強化し、保健所と共同の調査研究や他部門との共同による疫学的研究を企画実施していくべきである。調査研究課題としては、設置要綱の7)健康事象に関する疫学的調査研究、8)健康の保持及び増進に関する調査研究、9)地域保健活動の評価に関する研究、に関するもので各自治体の地域特性に基づいた内容が適切と考える。

 

B高度技術の地域保健への応用

 地方衛生研究所は、分析化学、分子生物学などの分野で高度な専門技術を保有しており、これを地域住民の健康度を知る指標に活用するなど、対人分野への応用を図るべきである。

 

C疫学情報の解析

 健康関連情報をデータベース化し、解析・評価することによって地域診断を可能にし、地域保健の施策に反映させていく。(情報関連で詳述)

 

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2)精度管理・レファレンス活動の推進

@外部精度管理

 1)合同精度管理委員会

  国立試験研究機関が地方衛生研究所に対し技術的支援を行うために、地方衛生研究所を精度管理するための合同精度管理委員会を国立試験研究機関と地方衛生研究所の代表で構成す必要がある。この委員会は、公的な性格を持った独立したものであることが望ましい。

  検討事項としては、外部精度管理調査事業、内部精度管理実施の支援、研修、レファレンス機能の整備・拡充、等について企画するとともに、具体的実施面についても協議・決定する。また、合同精度管理委員会は、地方における精度管理を支援していくべきである。

 

 2)マニュアル

  合同精度管理委員会精度管理実施要綱を策定するとともに、微生物部門(細菌系、ウイルス系、寄生動物系等)、理化学部門(食品系、水道系等)の分野ごとに精度管理実施マニュアルの策定が必要である。なお、分野ごとの対象項目を網羅し明記しておき、年度ごとに見直していくとともに実施優先順位を検討し、それに準じて実施する。

  但し、食品系は、食品衛生法によるGLP対応のなかで精度管理を実施することが義務づけられているので別扱いとする。

 

A研修

 合同精度管理委員会の検討事項の中には、国立試験研究機関が地方衛生研究所を対象に行う技術水準の確保のための専門研修制度も含む。全国的な研修とともに、ブロック別の研修も検討されるべきである。

 また、地方における精度管理においても、成績評価に基づく検査技術研修が必要であり、地方衛生研究所が保健所等の研修を担当する。

 

Bレファレンス機能

 国立試験研究機関および指導的役割を果たす能力のある地方衛生研究所においては、レファレンス機能を充実・強化する必要がある。

 精度管理用試料の調整と配布は特定の専門機関が一括して行うべきである。

 また、結果の評価については、統計学的標準作業書を策定しそれに基づいて実施していく。

 

C地方における精度管理

 地方精度管理委員会

 各自治体単位で地方精度管理委員会を、地方衛生研究所を中心に保健所・本庁および関連機関により構成する必要がある。検討協議会の分科会として位置づけることも考えられる。

 地方精度管理委員会は、合同精度管理委員会の精度管理実施要綱に準じた○○県精度管理実施要綱を策定し推進する。また、マニュアルも合同精度管理委員会に準じて策定し、保健所等で行うべき項目の優先順位等を検討し実施する。

 

D実施にあたって

 精度管理システムは、外部精度管理調査事業、内部精度管理活動への支援、研修・教育事業、レファレンス事業および情報システムが一つとして欠けることなく、それぞれが有機的に結合し、機能的に運営されることにより最大の効果が生み出され、公衆衛生の向上に貢献するものと考えられる。

 新興・再興感染症や食品・水の安全性、環境汚染などの公衆衛生上の諸問題の解決をめぐり、地方衛生研究所に対する社会的な要求や期待が高まっており、早期に予算的基盤を確保し、施設・設備の充実を図り、精度管理システムが構築されることが期待される。

 

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3)情報関連機能の充実強化

@地域保健の推進 

 新たな地域保健体系の中で保健所の「情報機能の強化」が要求されている。地方衛生研究所に対しては、設置要綱の中で公衆衛生情報の収集・解析・提供を地域の関連機関ネットワークの拠点として企画・実施することが求められている。地方衛生研究所がその役割を果たすには、ネットワークのためのハードに関する基盤整備はもとより、情報収集システムとデータベース化が不可欠である。また、地域診断やトレンド分析を行い、それを施策に反映させるためには、解析手法の蓄積はもとより収集・解析・提供という作業を長期的に継続してこそ有用となる。

 すなわち、Plan、Do、Seeの方法論(1.現状の把握、評価、2.計画策定推進、3.実行、4.結果の評価、5.計画の見直し)の繰り返し実践が重要である。この積み重ねにより、地域における情報が知識・知恵として蓄えられていくものと考える。

 

APlan、Do、Seeの基盤

 1)地域保健政策決定のためのデータベース

  地域の健康状況を把握するには健康指標に関するデータベースが必要である。データベース化は、必要に応じて全国、都道府県、二次医療圏、市町村までもカバーできるような広域的観察に基づくこと、さらに、時点特性を明らかにするために観察の長期的継続が重要である。

  健康事象に関する地域診断による問題発掘を行い、その解決のための提言を行うには、健康事象をとりまく様々な社会的・自然的事象に関するデータベースの利用など関連データベースとのリンクも必要である。

 

 2)地方衛生研究所・保健所間のネットワーク

  このような問題発掘・解決型のデータベース構築と運用には、地方衛生研究所と保健所間のネットワークが強化されなければならない。さらに、健康の普及啓発や問題解決のために住民指導を行う場合などは、ネットワークは衛生行政関連の機関のみならず、地域住民にも開かれたものであることが望ましい。

  また、専門機関である地方衛生研究所間で十分な知的連携を行ったうえで、行政とも連携して地域保健推進のための専門情報を発信していくべきであると考える。

 

Bデータベースとネットワークの具体的検討

 1)地域保健政策と健康指標・事業評価指標

  健康指標としては、平均余命、疾病死亡率、疾病登録による罹患率の利用が考えられる。一方、健康事業の評価には、健診受診率、累積受診率、精検率、精検受診率、疾患の発生率および死亡率の減少、疾患の早期発見率などの健康診断事業に関する指標などがある。また、健康教育事業では、事業への参加度、健康意識の改善度、生活様式の改善度、健康行動の実践度などがある。

 

 2)健康指標の捉らえ方とデータベース

  厚生省、文部省、労働省、環境庁などの調査による健康指標関連データの活用が考えられるが、これらは市町村、都道府県単位になっており、二次医療圏単位への組み替えなどによって、より有用な解析を目指す。

  さらに、それでは不十分なものについては、各二次医療圏ごとの、都道府県ごとの調査が必要となってくる。国勢調査、人口動態統計、国民栄養調査、患者調査、その他、学校保健報告、体力調査や労働省や環境庁が行う調査が考えられるが、これらを二次医療圏・都道府県ごとに集計・解析することは、地域診断に有効と考える。

 

 3)データベースの体制づくり

  情報の専門家の確保および養成はもとより、データベースとネットワークの有効性を職員各個が理解し、各個がその充実と運用を推し進めることが重要な点である。そのためには、具体的に活用されるデータベースづくりやメールの交換などによって、それらの有用性を理解せしめ意識の改革を図る必要がある。

 

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4)調査研究等の企画調整と組織の強化

@ニーズの把握とビジョン

 住民ニーズと国および各自治体の地域保健に関する総合計画等との整合性のとれた総合的調査研究方針・計画立案の企画と調整を行うべきである。

 

A調査研究の企画・運営に関する調整・管理

各自治体の研究事業費を始め厚生省、文部省、環境庁および各種団体等からの研究補助金申請に関する調整、共同研究・受託研究などの調整を行うとともに、研究の全般について進行管理と結果報告のとりまとめなどを総合的・全所的に行う必要がある。

 

B他機関との調査研究の連携に関する企画調整

所内および所外とのプロジェクト研究などについて、企画調整、進行管理を行うことが必要である。特に本庁・保健所等とともに開く検討協議会においては、調査研究の企画調整の中心的役割を担うべきである。

 

C広報活動

 情報部門と連携し、住民の健康維持と生活の安全確保のために有用な情報を随時提供していく。また、公衆衛生関係者を対象にした教育指導の一環として専門的な情報の提供も行うべきである。

また、開かれた研究所として地域住民等への見学・情報提供等を通じて、公衆衛生の教育・啓発を推進すべきである。

 

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5)危機管理の観点からの体制づくり

 公衆衛生上の危機(事故・事件等)に際し、それによって生ずる各種の緊急性を要する問題を迅速に解決し、危機の拡大を防止するための専門機関として機能する必要がある。このため、各種の分析や診断を行うほか、データベースを活用して毒性や治療法に関する情報を提供することにより、原因究明と医療支援を行うべきである。

@体制基盤整備

 規模別、分野別(感染症、水、毒物、化学物質等)に対応するためのマニュアルを作成し、本庁、対策本部、本庁関係課、地方衛生研究所、保健所等の関連機関の役割分担を明確にする必要がある。衛生研究所の役割としては以下の機能が考えられる。

 

 1)本庁対策本部への参画(シンクタンク機能、疫学的機能)

 2)関連情報の受発信(本庁、保健所、地方衛生研究所、国)

 3)関係機関職員の緊急時研修(保健所、検査室)

 4)保健所の支援、他地方衛生研究所の支援

 5)試験検査、毒性試験、疫学的解析

 

 設備整備としては、危機管理用実験室(生物系、化学系)および危機管理対策室(会議室、情報機器整備)などが必要である。

 所内の体制としては、所内対策本部の設置のほか、企画調整、総合対応窓口、本庁およびプレス対応窓口の設置、および実施班を含む対内外情報連携網を確立しておく。また、これらについて危機管理マニュアルの整備とともに定期的な想定訓練も実施する。

 上記機能を効果的に果たすためには、近隣の自治体特に衛生研究所間で専門情報の交換や後述の技術研修など、連携基盤を強化する必要がある。

   

A情報の受発信

 各種機能を通じて継続的な公衆衛生情報の収集を内外より行うことにより、各種データベースを整備する必要がある。これを活用し、危機に際し付加価値情報を関連機関に発信する。収集・発信方法としては、ファックス、電話、文書、データベースおよびインターネットを活用する。

 

B基礎的研究

 危機に際し、その拡大をいち早くくい止めるために最も必要となる専門的知識・技術の確保を目的として、以下のような予見的、基礎的研究を常日頃から継続的に実施する必要がある。

 1)予見的研究:他府県、諸外国情報に基づくリスク評価等

 2)基礎的研究:基盤技術の維持、先端技術の取得

 

C研修の実施

 保健所等の各自治体内の関係職員に対する研修を平常時より実施するほかに、全国のどの地域で危機が発生しても即時に自力解決が行えるよう、国立試験研究機関と地方衛生研究所間が連携して技術研修・精度管理を系統的・計画的に実施する必要がある。

 

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4.保健所等との連携

1)保健所との共同事業

 地域保健法の中で地方衛生研究所は「地域保健に関する総合的な調査研究」を実施することが求められている。そのためには、特に地方衛生研究所と保健所が綿密に連携し調査研究を実施することが不可欠である。

 以下に、平成6年度から8年度にかけての調査結果を、今後の保健所との共同研究(連携事業)のあり方としてまとめた。

@これまでの問題点

 保健所との連携の阻害要因は「共通に話し合う機会がない」「積極性の不足」「時間的余裕がない」等、努力不足も含め相互の共通認識が得られない状況にあったこと、また、保健所独自の阻害要因としては「組織として調査研究ができる体制になっていない」ことが分かった。

 しかし、これら要因が解決された場合は「出来る限り活性化に取り組みたい」等の前向きの意見が多くみられた。

 

A共同研究及び連携事業の在り方とノウハウ

 過去に地方衛生研究所が実施した連携事例は、保健所と連携して行った例が最も多く、次いでこれに本庁を加えた連携が多かった。これらは、いずれも日常業務遂行上の必要性から最もニーズのあったテーマが取り上げられており、関係機関との調整に最も苦労しながらも、企画段階の調整が最も重要であることを認識して遂行されていた。また、それらの多くは、予算の裏付けのない相互の自主努力で実施されていた。これらの事例のうち特に成功したと思われる事業を分析すると、「地方衛生研究所、保健所、本庁」の3機関による連携のものが多く、2者間の連携よりも3者間の方が上記の様な問題点を軽減化でき今後の望ましい形態であることが示唆された。

 なお、連携事例の成果の発表については、学会発表と内部会議等での報告数がほぼ同じであった。

 

B共同研究及び連携事業分野

 従来、地方衛生研究所と保健所との共同研究は低調であり、地方衛生研究所は対人関係業務に必ずしも積極的ではなかった。したがって、過去の連携事例分野としては「食品微生物」、「食品化学」、「細菌」、「水質汚濁」および「保健所・衛生行政」等が主たるものであった。

 今後、地方衛生研究所が積極的に取り組む必要性のある分野としては「保健医療情報」、「精度管理」、「地域保健・地域医療」および「保健教育」等を掲げる機関が多かった。

 一方、保健所側からみた地方衛生研究所との共同研究で行うことが望ましいとされた分野は「エイズ」、「保健医療情報」、「精度管理」、「食中毒」、「輸入食品」および「飲料水」等であり、これらの分野について、地方衛生研究所は今後積極的に対応を図っていく必要がある。

 

C連携の強化

 フィールドをベースとした健康に係る地域或いは集団を対象にした事業や調査研究は、地方衛生研究所単独で行うことには限界があり、保健所、市町村などの協力がなければ不可能である。  

 このためには、相互の理解を深める必要があり、本庁、地方衛生研究所、保健所から構成される基本指針でいう検討協議会を設置し、十分に機能させることが重要である。また、その分科会の活用も一法である。ここで業務、調査研究の役割分担を明確にし、企画・調査方法・結果の活用、予算の確保等を協議する。また、検討会の機能強化のためには、地方衛生研究所、保健所に企画調整部門を設置する必要がある。

 

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2)検討協議会

 新地域保健体系の中で地方衛生研究所が専門性を発揮し、公衆衛生の向上を目指すためには検討協議会の場において定期的な意見交換を行い、本庁、保健所、地方衛生研究所の互いの立場や抱える問題を共有化し、同じ認識の上に立って事業を推進していくことが必要である。そのためには、運営要項や検討協議会および分科会等の中身を本庁主導で早急に検討しなければならない。以下に記述した事項は、本研究で検討した地方衛生研究所に関連の深い項目(調査研究、研修、情報)に関する検討協議会のあり方である。

@基本的検討事項

 行政ニーズの把握、国の方策との整合性、国庫補助制度との関連、他府県の連携、人員および施設整備等の体制づくり等を考慮した上で、以下の事項を検討する必要がある。

 1)調査・研究の企画および調整

 ・地域保健に関する調査研究の基本方策および実施に向けての関連機関の分担

 ・基本方策に基づく調査研究の企画調整、予算調整、実施調整

 ・成果の評価および利活用・提供

 2)地域保健関係者に対する研修

 ・研修の基本方策および実施に向けての関連機関の役割分担

 ・基本方策に基づくカリキュラムの作成、企画調整、予算調整、実施調整

 ・研修成果の評価

 3)情報ネットワーク

 ・情報の収集・解析・提供に関する基本方策および関連機関の役割分担

 ・基本方策に基づく情報連携の企画調整、ハード・ソフト整備に関する企画調整

 ・情報公開に関する規定の検討

 ・実施と運用に関する調整および効果の評価

 

A検討協議会の構成メンバー

 本庁を中心とし地方衛生研究所と保健所の3者を基本として構成するが、他の関連機関や外部有識者も構成メンバーとして検討すべきである。また、下部組織として実務担当部会(分科会等)も設置する必要がある。運営に関しては、調査研究については地方衛生研究所が中心となるべきと考える。

 

B検討協議会の設置に向けての基盤・条件整備

以下の基盤・条件整備が必要である。

 1)既設の委員会等との機能的位置づけの明確化

 2)担当する本庁主管課の明確化

 3)設置要綱の策定および運営予算の確保

 4)自治体間での共通性が必要

 

C検討協議会の設置後、有効に機能するための条件整備

以下の基盤・条件整備が必要である。

1)衛生行政施策および業務としての認知

 2)予算確保に関する具体策

 3)保健所・地方衛生研究所の企画調整および疫学調査機能の強化

 4)意見や情報交換手段としての情報ネットワークの構築

5)厚生省の協力

 

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