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大阪府感染症情報センター

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小児における原因不明の重症急性肝炎が複数の国で確認されています

更新日:2022年7月29日

以下の記述は世界保健機関(WHO)が、Disease Outbreak NEWS 1), 2), 3), 4), 5)を通じ、配信した内容を元にしている。

 2022年7月21日更新

現状

WHOが設定した症例定義に合致した症例が2022年7月8日までに1,010例(可能性例)報告されている。報告国は35か国で、WHOの6つある地域のうちアフリカ地域を除く5つの地域(ヨーロッパ、アメリカ、西太平洋、東南アジア、中東)から報告があり、ほぼ半分の報告(48%)はヨーロッパ地域からである(参考図1)。最も多く報告している国は米国の334例(33%)で、続いて英国の272例(27%)、メキシコが69例(7%)、日本が67例(7%)となっている。

WHOが原因不明の重症急性肝炎について設定している症例定義

  • 確定例(Confirmed case):N/A(該当なし)。
  • 可能性例(Probable case);2021年10月1日以降、年齢が16歳以下で、血清中トランスアミナーゼ(ASTまたはALT)の値が500 IU/Lを超え、急性肝炎(A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスが原因のものを除く)を呈するもの。
  • 疫学的関連例(Epi-linked):2021年10月1日以降、年齢に関係なく、可能性例との濃厚接触歴を有し、急性肝炎(A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスが原因のものを除く)を呈するもの。  

WHODONS0712_1.png(参考図1)2021年10月1日以降、2022年7月8日時点の原因不明の重症急性肝炎症例が報告されている国々5)


患者の特徴

可能性例のうち46例(5%)で肝移植が必要となり、22名(2%)が死亡したと報告されている。ほとんどは症例間の疫学的関連性が認められておらず、スコットランドおよびオランダでそれぞれ1組のみ疫学的関連のある症例が報告されている。
性別、年齢が判明している479例のうち、48%が男性(n=232)で、大部分の症例(76%、n=364)は6歳未満である(参考図2)。
臨床情報が収集された100例のうち、最も一般的な症状は悪心・嘔吐(60%)であった。続いて、黄疸(53%)、全身の脱力感(52%)および腹痛(50%)で報告が多かった。
発症日と入院日の両方が判明している167例における、発症日から入院日までの日数の中央値は4日(四分位範囲7日)であった。

WHODONS0712_2.png

(参考図2)2022年7月8日現在の原因不明の重症急性肝炎症例の年齢と性別の分布(n=479)5)


患者から検出された病原体の特徴

アデノウイルスは引き続き最も頻度が高く検出されている病原体である。ヨーロッパ地域ではPCR検査を実施した患者の52%(193/368)から検出されている。一方、日本の患者におけるアデノウイルスの検出割合は9%(5/58)と、ヨーロッパ地域の患者と異なる傾向である。各国のアデノウイルスの監視体制は限定的であることから、検出割合について評価することは困難である。

SARS-CoV2はヨーロッパ地域ではPCR検査を実施した患者の16%(54/335)から検出されている。米国の暫定的な結果によると8%の患者(15/197)から検出されている。日本でも米国と同様8%(5/59)の患者から検出されている。

原因の仮説

重症急性肝炎の原因は不明のままであり、原因究明に向け、アデノウイルスを含む感染症、非感染性(毒素、薬物等)のリスク要因について引き続き調査が実施されている。

WHOは、原因不明の重症急性肝炎の症例と肝移植が通常想定されるよりも高い頻度で発生しているのかどうかを評価するため、2022年の発生頻度を過去5年間と比較するサーベイランスを世界規模で開始している。

現時点で考えられる予防

一般的な感染症を予防するためには、定期的な手洗い咳エチケット人混みを避けること、必要に応じたマスクの着用室内の換気が重要






過去の記事

 2022年6月30日配信分

現状

WHOが設定した症例定義に合致した症例が2022年6月22日までに920例(可能性例)報告されている。報告国は33か国で、WHOの6つある地域のうちアフリカ地域を除く5つの地域(ヨーロッパ、アメリカ、西太平洋、東南アジア、中東)から報告されている(参考図1)。報告数が最も多く報告している国は米国の305例(33%)で、続いて英国の267例(29%)、日本およびメキシコの58例(6%)となっている。

WHODONS0624_1.png(参考図1)2021年10月1日以降、2022年6月22日時点の原因不明の重症急性肝炎症例が報告されている国々4)

患者の特徴

920例のうち45例(5%)で肝移植が必要となり、そして18名(2%)が死亡したと報告されている。ほとんどは症例間の疫学的関連性が認められておらず、スコットランドおよびオランダでそれぞれ1組のみ疫学的関連のある症例が報告されている。
性別、年齢が判明している422例のうち、48%が男性(n=202)で、大部分の症例(78%、n=327)は6歳未満である(参考図2)。
臨床情報が収集された100例のうち、最も一般的な症状は悪心・嘔吐(54%)であった。続いて、黄疸(49%)、全身の脱力感(45%)および腹痛(45%)で報告が多かった。
発症日と入院日の両方が判明している141例における、発症日から入院日までの日数の中央値は4日(四分位範囲7日)であった。

WHODONS0624_2.png

(参考図2)2022年6月22日現在の原因不明の重症急性肝炎症例の年齢と性別の分布(n=422)4)

原因の仮説

重症急性肝炎の原因は不明のままであり、原因究明に向け、アデノウイルスを含む感染症、非感染性(毒素、薬物等)のリスク要因について引き続き調査が実施されている。

現時点で考えられる予防

アデノウイルスやその他の一般的な感染症を予防するためには、定期的な手洗い咳エチケット人混みを避けること、必要に応じたマスクの着用室内の換気が重要




 2022年5月31日配信分

現状

WHOが設定した症例定義に合致した症例が2022年4月5日から5月26日までに650例(可能性例)報告されている。報告国は33か国で、WHOの6つある地域のうちアフリカ地域を除く5つの地域(ヨーロッパ、アメリカ、西太平洋、東南アジア、中東)から報告されている(参考図)。報告数が最も多く報告している国は英国の222例(34%)で、続いて米国の216例(33%)、日本の31例(5%)となっている。

WHOが原因不明の重症急性肝炎について設定している症例定義

  • 確定例(Confirmed case):N/A(該当なし)。
  • 可能性例(Probable case);2021年10月1日以降、年齢が16歳以下で、血清中トランスアミナーゼ(ASTまたはALT)の値が500 IU/Lを超え、急性肝炎(A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスが原因のものを除く)を呈するもの。
  • 疫学的関連例(Epi-linked):2021年10月1日以降、年齢に関係なく、可能性例との濃厚接触歴を有し、急性肝炎(A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスが原因のものを除く)を呈するもの。  

原因不明の重症急性肝炎報告国

(参考図)2022年5月26日までに原因不明の重症急性肝炎が報告されている国々
WHO Disease Outbreak News 27 May3)から引用

患者の特徴

650例のうち38例(6%)で肝移植が必要となり、そして9名(1%)が死亡したと報告されている。ほとんどは症例間の疫学的関連性が認められておらず、スコットランドおよびオランダでそれぞれ1組のみ疫学的関連のある症例が報告されている。

原因の仮説

英国ではアデノウイルス検査をした症例の75%からアデノウイルスが検出されており、そのうち型別検査が実施された35例のうち27例からアデノウイルス41型が検出されている。現時点で、アデノウイルスは引き続き有力な仮説として考えられるが、アデノウイルス感染症は一般的に小児に胃腸炎や呼吸器症状を引き起こすと考えられ、今回の小児における急性肝炎の病態を完全には説明できていないことから、以下のことについてさらなる調査が必要とされている。

  1. COVID-19パンデミック禍でアデノウイルス感染症が低いレベルで推移したことで小児においてアデノウイルスに対する感受性が増加している可能性、
  2. 新規アデノウイルスの出現の可能性、
  3. アデノウイルスとSARS-CoV2ウイルスとの共感染、またはアデノウイルスと過去のSARS-CoV2感染による複合的要因により免疫細胞が活性化され、多系統炎症性症候群を引き起こす可能性

また、英国では市中のアデノウイルス感染症が増加していることから、その結果アデノウイルス検査が多く実施されることで今回の小児急性肝炎とアデノウイルスとの関連が見かけ上現れている可能性を考慮する必要がある。今後、欧州や米国以外の国々におけるアデノウイルス検査の拡大や、英国が実施している症例対象研究の結果により、アデノウイルス感染症との関連がより明らかになってくると考えられる。

原因究明に向け、アデノウイルス以外の感染症、非感染性(毒素、薬物等)のリスク要因についても引き続き調査が実施されている。

現時点で考えられる予防

アデノウイルスやその他の一般的な感染症を予防するためには、定期的な手洗い咳エチケット人混みを避けること、必要に応じたマスクの着用室内の換気が重要


2022年4月27日配信分

経緯

2022年4月5日、英国スコットランドからWHOへ、10歳未満の小児における原因不明の重症急性肝炎の患者の集積が報告された。10例のうち9例は2022年3月から症状を呈し、残る1例は2022年1月から症状を呈していた。いずれの患者も入院時に探知されている。

現状

2022年4月21日までに少なくとも169例の同様の症状を呈する患者報告が12ヵ国より、相次いで報告されている(参考図) 。
報告増が、(i) 本肝炎症例の真の増加によるものか、(ii) 注意喚起に伴う積極的症例探索の結果、探知感度が増加していることによるものか、現時点では不明である

報告のある国々

 (参考図)原因不明の重症急性肝炎が報告されている国々
WHO Disease Outbreak News 23 April 2)から引用

患者の特徴

169例の年齢範囲は1か月から16歳で、そのうち17例(10%)で肝移植が必要となり、1名が死亡したと報告されている。患者は、血清中トランスアミナーゼであるAST、ALTの上昇(500 IU/L)や黄疸がみられ、多数の患者で肝炎症状を呈する前に腹痛、下痢、嘔吐等、消化器症状の先行発症を認めた。


原因の仮説

肝炎を引き起こす一般的な肝炎ウイルス(A型、B型、C型、D型、E型)は、いずれの患者からも検出されておらず、渡航歴や患者間の疫学的なつながりも現時点では特定されていない。患者の大部分は新型コロナウイルスワクチンを接種していないことから、ワクチンとの関連は示されていない。

一方、少なくとも74例の患者からアデノウイルスの検出が報告されており、そのうち18例からアデノウイルス41型が検出されている。20例から新型コロナウイルスが検出され、20例のうち19例はアデノウイルスも検出されている。

英国、オランダでは、市中におけるアデノウイルス感染症の増加も確認されている。現時点では、仮説として、アデノウイルスが原因の一つと考えられているが、一般的に、呼吸器症状を引き起こすウイルスとして知られている。アデノウイルスでは、50以上の型が存在し、型によって、急性胃腸炎、結膜炎、膀胱炎を引き起こす。これまで、健常な小児で、アデノウイルス41型による急性重症肝炎事例は報告されておらず、通常は、下痢、嘔吐、発熱、呼吸器症状を呈す。

世界各国では、原因追究のため、患者の詳細な臨床症状・行動歴等の情報収集、および微生物検査、環境調査、理化学検査が実施され、積極的に患者を探知する体制整備が進んでいる

WHOは原因不明の重症急性肝炎について以下の症例定義を設定している
  • 確定例(Confirmed case):N/A(該当なし)。
  • 可能性例(Probable case);2021年10月1日以降、年齢が16歳以下で、血清中トランスアミナーゼ(ASTまたはALT)の値が500 IU/Lを超え、急性肝炎(A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスが原因のものを除く)を呈するもの。
  • 疫学的関連例(Epi-linked):2021年10月1日以降、年齢に関係なく、可能性例との濃厚接触歴を有し、急性肝炎(A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスが原因のものを除く)を呈するもの。     

参考情報

  1. WHO Disease Outbreak News 15 April 2022, Acute hepatitis of unknown aetiology – the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland 
  2. WHO Disease Outbreak News 23 April 2022, Multi-Country – Acute, severe hepatitis of unknown origin in children
  3. WHO Disease Outbreak News 27 May 2022, Acute hepatitis of unknown aetiology in children - Multi-country
  4. WHO Disease Outbreak News 24 June 2022, Severe acute hepatitis of unknown aetiology in children - Multi-country
  5. WHO Disease Outbreak News 12 July 2022, Severe acute hepatitis of unknown aetiology in children - Multi-country