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大阪府感染症情報センター

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サル痘の非流行国におけるアウトブレイク発生に関して

更新日:2022年6月9日

世界保健機構(WHO)(1)によると、2022年5月13日から6月2日の間に、世界の27のサル痘非流行国から780のサル痘検査確定症例が報告されている。症例の多くはヨーロッパや北アメリカで発生しており、これまでサル痘の流行が報告されてきたアフリカ大陸の国々への渡航歴のない患者が相次いで報告されており、常在国外では前例のない流行となっている。

1. サル痘とは[国立感染症研究所ホームページ(2)より]

サル痘は、サル痘ウイルス感染による急性発疹性疾患である。感染症法では4類感染症に位置付けられている。主にアフリカ中央部から西部にかけて発生しており、自然宿主はアフリカに生息するげっ歯類が疑われているが、現時点では不明である。稀に流行地外でも、流行地からの渡航者等に発生した事例がある。症状は発熱と発疹を主体とし、多くは2-4週間で自然に回復するが、小児、妊婦、免疫不全者等で重症となる場合がある。

サル痘ウイルスの動物からヒトへの感染経路は、感染動物に咬まれること、あるいは感染動物の血液・体液・皮膚病変(発疹部位)との接触による感染が確認されている。自然界ではげっ歯類が宿主と考えられているが、自然界におけるサイクルは現時点では不明である。

ヒトからヒトへの感染は稀であるが、濃厚接触者の感染や、リネン類を介した医療従事者の感染の報告があり、患者の飛沫・体液・皮膚病変(発疹部位)を介した飛沫感染や接触感染があると考えられている。

日本国内ではこれまでに感染症発生動向調査においてサル痘患者の報告はなく、大規模に市中に拡大する可能性は低く、日常生活における感染リスクは低い。

2. アウトブレイクの状況(2022年6月4日時点) [WHOホームページ(1)より]

WHOは、非流行国で同時多発的に感染者がでたことから、サル痘が探知されないまま感染が広がっており、さらにその後に感染を大きく拡大させるイベントがあったという可能性を考えている。

688例(88%)はヨーロッパ地域の20か国で発生し、アメリカ地域80例(10%)、地中海東岸地域9例(1%)、西太平洋地域3例(<1%)と続いている。(図参照)(注:この地域はWHOが用いる地域分類による)

(図) 5月13日から6月2日にWHOに報告されたサル痘症例の地理的分布
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欧州疾病予防管理センター(ECDC)(3)は、今回報告された感染者の多くは若年男性であること、男性間で性交渉を行う者(MSM; Men who have sex with men)が多く含まれていること、一部の症例では陰部病変を持っていたことから、性的接触での伝播も示唆されていること、セックスパートナー以外の濃厚接触があった者における継続的な伝播は報告されていないこと、を指摘している。

今回のアウトブレイクでは、性器および肛門周囲の病変、発熱、リンパ節の腫脹、嚥下痛などが一般的な症状として認められる。発熱やリンパ節の腫脹を伴う口内炎が一般的な特徴である一方、多くの症例で肛門性器周囲の発疹が最初に出現することから、性的接触時の密接な身体的接触が感染経路である可能性が高いと考えられている。また、全身症状(発熱など)よりも先に膿疱が現れたり、病変の発生段階が異なる症例もあり、サル痘の症状の出現としては非典型的であることが報告されている。

本アウトブレイクにおいては、隔離のために入院した患者を除けば、入院の報告はほとんどなく、死亡例は報告されていない(アフリカの常在国では過去に死亡の報告はある)。また、医療従事者の二次感染例は現時点で報告されていない。

確定診断されている事例からは、西アフリカ系統群に属するサル痘ウイルスが検出されている。西アフリカ系統群は、中央アフリカで主に流行するコンゴ盆地系統群と比較して、重症化しにくく、またヒトからヒトへの感染性が低いとされる。


サル痘の症例の定義は以下となっている [厚生労働省]

<確定症例>

検査診断でサル痘感染が確定した者

<疑い症例>

下記の1~3全てを満たす者を指す。

1 説明困難*な急性発疹を呈している。

(*) 水痘、風疹、梅毒、伝染性軟属症、アレルギー反応等のその他の急性発 疹を呈する疾患によるものとして説明が困難であることをいう。

2 次の1つ以上の症状を呈している。

  • 発熱(38.5℃以上) ・頭痛 ・背中の痛み ・重度の脱力感 ・リンパ節腫脹

3 次のいずれかに該当する。

  • 発疹等の発症の 21日以内にサル痘常在国(**)に滞在歴があった。
  • 発疹等の発症の 21日以内にサル痘常在国以外のサル痘症例が報告されている 国に滞在歴があり、滞在先で他者との濃厚接触(性的接触を含む)があった。
  • 発疹等の発症の 21日以内にサル痘常在国やサル痘症例が報告されている国に 滞在歴がある者と日本国内において濃厚接触(性的接触を含む)があった。
  •  発疹等の発症の 21 日以内に複数または不特定の者と性的接触があった。

(**)サル痘常在国:ベナン共和国、カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン、ガーナ(動物のみで確認)、コートジボワール、リベリア、ナイジェリア、コンゴ共和国、シエラレオネ及び南スーダン



3. 国内の状況 [国立感染症研究所ホームページ(4)より]

本邦の感染症発生動向調査において、本邦でサル痘の症例が報告されたことはない。

サル痘は、感染症法上で4類感染症に位置付けられており、患者もしくは無症状病原体保有者を診断した医師、感染死亡者及び感染死亡疑い者の死体を検案した医師は、ただちに最寄りの保健所への届出を行う必要がある。 現行の感染症発生動向調査で集計が開始された2003年以降、現時点で輸入例を含め本邦でサル痘の報告はない。厚生労働省は、2022年5月20日に地方自治体に対し、注意喚起と情報提供への協力依頼を行っている。

4. 対策[WHO(1)、国立感染症研究所ホームページ(4)より]

  早期の患者発見と積極的疫学調査
サル痘は、早期の患者発見と接触者の追跡により、ヒトからヒトへの感染連鎖を断つことが可能な疾患である。注意喚起、医療機関への症状等の周知により、早期に患者発生を検知し、検知した際には積極的疫学調査を速やかに開始すべきである。サル痘に類似する発疹等の症状がある場合は速やかに医療機関に相談することが望ましい。

  大規模な集会
大規模な集会は、人々の間で密接かつ長期的で頻繁な相互作用を伴う場合、サル痘ウイルスの感染に適した環境となり、病変部、体液、飛沫、汚染された物質との接触にさらされる可能性がある。サル痘患者が発見された地域での集会の延期や中止は、既定の措置として必要ない。

  海外渡航
現時点で入手可能な情報に基づき、WHOは締約国に対し、入国者または出国者のいずれに対しても、海外渡航関連の措置を採用することを推奨しない。

  感染者等への注意事項
皮疹が完全に治癒し、落屑するまでの間は周囲のヒトや動物に感染させる可能性があるため、感染者はヒトやペットの哺乳類(特にげっ歯類)の動物との接触を避けるべきである。 接触者は、接触後21日間は、発症時には速やかにヒトやペットの哺乳類(特にげっ歯類)の動物との接触を避け、医療機関を受診することが求められる。また、小児や妊婦、免疫不全者との密な接触や、性的接触も避けるべきである。また、重症化リスクが想定される接触者には、痘そうワクチンの接種が考慮される。

  差別や偏見への対策
特定の集団や感染者、感染の疑いのある者等に対する差別や偏見は、人権の侵害につながる。さらに、受診行動を妨げ、感染拡大の抑制を遅らせる原因となる可能性がある。偏った情報や誤解は差別や偏見を生むため、客観的な情報に基づき、先入観を排した判断と行動が推奨される。

 

参考:

  1. World Health Organization. Multi-country monkeypox outbreak: situation update. [cited 2022 Jun 8]. Available from: https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON390
  2. 国立感染症研究所. サル痘とは. [cited 2022 Jun 8]. Available from: https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/408-monkeypox-intro.html
  3.  European Centre for Disease Prevention and Control. Epidemiological update: Monkeypox outbreak. [cited 2022 Jun 8]. Available from: https://www.ecdc.europa.eu/en/news-events/epidemiological-update-monkeypox-outbreak
  4. 国立感染症研究所. アフリカ大陸以外の複数国で報告されているサル痘について(第1報) . [cited 2022 Jun 8]. Available from: https://www.niid.go.jp/niid/ja/from--lab/2521lab/2521--cepr/11166cepr/11166--monkeypoxmonkeypox--rara--0524.html