エムポックスの「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」宣言について
更新日:2024年8月19日
世界保健機関(WHO)は、2024年8月14日に開催された緊急委員会での検討をもとに、コンゴ民主共和国とアフリカの複数の国で発生しているエムポックスの急増が、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると判断しました(WHO)。
2022年7月23日に宣言されたPHEIC(サル痘の多国間への感染の急速な拡がりについて_大阪府感染症情報センター)は、その後の世界的な報告数減少に伴い、2023年5月11日に終了されましたが、今回で2回目のPHEIC宣言となりました。
今回のPHEIC宣言に至った主な理由は、以下のような点となります。
- 2023年9月以降のコンゴ民主共和国での症例から、新しい型(クレード1b)のウイルスが検出されていること(前回のPHEIC宣言時の世界的な流行では、クレード1より重症になりにくいとされるクレード2が中心でありました)
- クレード1bのウイルスは、コンゴ民主共和国で主に性的接触を介して(男女問わず小児や成人で報告されており、男性間性交渉での感染が主体とは考えられていない)感染が拡がっており、過去1ヶ月間で、これまでクレード1bが報告されたことがなかった4か国(ブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダ)から、100例以上の報告があったこと
- クレード1bのウイルスは、コンゴ民主共和国および周辺国のみで確認されているが、その他のアフリカの国々や、大陸をこえた拡大が懸念されること
世界の発生状況
エムポックスは、1970年にコンゴ民主共和国で初めてヒトにおいて検出されました。
この感染症は中央アフリカおよび西アフリカの国々に常在しています。
2022年7月には、主に性的接触を通じて、これまでエムポックスが確認されていなかった複数の国に拡大したため、PHEICが宣言されました。
このPHEICは、世界的な症例が持続的に減少した後、2023年5月に終息が宣言されました。
しかし、その後も流行の中心であったクレード2のウイルス(複数国で報告されているエムポックスについて(第7報) _国立感染症研究所)は、現在でも世界的に報告は続いています。
世界全体でみると、2022年1月から2024年6月までに、116の国・地域から、99,716例の検査確定例の報告があり、そのうち208例の死亡が報告されています(表1)(図1)。
2024年5月から6月にかけての1ヶ月では、世界全体で、アフリカ地域でのみ報告例が増加しています(表1)。
アフリカ地域の中でも、流行地域の中心であるコンゴ民主共和国では、2024年に報告された例は、PHEIC宣言時点までで、すでに2023年の合計を上回っており、疑い例も含めると、15,600例以上の患者と、537例の死亡が報告されています(WHO)。
また、同国の周辺国である、ブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダ、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国においても、クレード1の症例が報告されています。検査されていない事例も多いため、実際の症例数はさらに多いと考えられています。
表1)WHOに報告された2022年1月1日から2024年6月30日までの地域ごとのエムポックス報告数(検査確定例)と死亡数、2024年5月・6月の新規報告数、2024年5月から6月にかけての報告数の増減
図1)2022年1月1日から2024年6月30日までに報告されたエムポックス症例の地理分布
国内の発生状況
2024年は、全国で第31週までに15例の報告がありますが、大阪府では第32週までに報告はありません(感染症発生動向調査週報_国立感染症研究所)。
2022年から2024年2月までに、国内で確認されている240例のすべてが男性であり、そのうち229例(95.4%)において推定・確定される感染経路として接触感染があったことが確認されています。
また、175例(72.9%)において発症前21日間に性的接触があったことが把握されています。
このことから、日本国内においても男性同士の性的接触による感染伝播が中心となっている可能性が示唆されています(複数国で報告されているエムポックスについて(第7報)_国立感染症研究所)。
これまでに届出時点の死亡例は確認されていませんが、2023年12月13日に、2023年9月に診断された症例1例の死亡が確認され、国内初の死亡例として、厚生労働省が公表しました(エムポックス患者死亡例について_厚生労働省)。
症状が出たら
国内で報告されている240例のうち、最も多く報告されている症状は発疹(89.6%)です。
また、発熱は72.5%、リンパ節腫脹は33.3%、肛門直腸痛は22.1%、倦怠感は18.8%の患者でみられたと報告されています。無症状の患者は240例中5例のみ(2.1%)でした。
(複数国で報告されているエムポックスについて(第7報)_国立感染症研究所)
エムポックスが多く報告されている国・地域に滞在し、上記を含むエムポックスが疑われる症状を認めた場合には、まず、最寄りの医療機関に相談することが大切です。
参考情報
- Multi-country outbreak of mpox, External situation report#35- 12 August 2024 (WHO)
- Health Alert Network (HAN) - 00513 | Mpox Caused by Human-to-Human Transmission of Monkeypox Virus in the Democratic Republic of the Congo with Spread to Neighboring Countries (CDC)
- Africa CDC Declares Mpox A Public Health Emergency of Continental Security, Mobilizing Resources Across the Continent (Africa CDC)
- WHO Director-General declares mpox outbreak a public health emergency of international concern(WHO)
- 複数国で報告されているエムポックスについて(第7報) 国立感染症研究所
- 海外安全ホームページ: 危険情報詳細 エムポックスに関する感染症危険情報(レベル1)の発出(外務省)
- エムポックスに関する情報提供及び協力依頼について(厚生労働省_令和6年8月16日事務連絡)